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種苗法改定案に対する見解

2020 年 4 月 9 日

日本の種子(たね)を守る会

会長 八木岡 努

農林水産省は、本年 3 月に種苗法の一部を改正する案を国会へ上程しました。

これについて日本の種子を守る会としての見解を公表します。

 

まず、この法案は農漁業者への影響が甚大であると想定されるので、充分な時間をとり農 漁業者の幅広い意見を反映させて審議されるべきであると考えます。したがって現在の新 型コロナウィルス対応の緊急事態での拙速な審議は延期すべきであると申し上げます。

 

日本の種子を守る会は、今回農水省による改正案の問題は農業競争力強化支援法や 2017 年 11 月の農水省事務次官の通知にあるように、公的な種苗事業を民間に移すという路線の元 に、事実上、多国籍企業にその権利を移そうとしていることに根源的な問題があると指摘し ます。農林水産業の担い手である「多数の農漁業者の保護育成」とは反対の改正法案となっ ている事です。農林水産業の担い手である地域の農家や地域の種苗会社も、都道府県の公共 種苗事業もこうした中で崩壊の危機に瀕します。

 

1、自家増殖禁止、品種登録制度の全面化による農家経営の圧迫に反対します。

 (1) 種苗を開発し品種登録可能なのは、投資額と開発時間などにより、主に公的機関か 大企業が占めることが想定されます。その公的機関を縮小しその開発知見を民間に 移管するとする農業競争力強化支援法の下では、特定多国籍企業による占有が危惧 されます。

 (2) 海外流出を「育成者の意図しない国や地域への防止」としていますが、日本の公的 機関が持つ育種知見が多国籍企業に移管されればむしろ日本の税金で育成された 種苗を合法的に海外に流出させてしまうことです。

 (3) 農家などが「自家増殖を自由にできる一般品種」は現実にはその使用実態は把握さ れておらず、ここ数年で許諾を必要とする「品種登録の急速な増加」と今後の「登 録品種の拡大」により自由に使用できる「一般品種の大幅な縮小」が危惧されます。

 (4) 農家の現場は、イチゴや芋類、サトウキビなど多種類が種苗を毎年新規に購入しそ のまま使う割合は 1 割以下であり、ほとんどが自家増殖で増やして使用していま す。その自家増殖を許諾制及び使用料が必要となれば、農家経営を圧迫し破綻に追 いやることです。

 (5) 農水省は自家増殖禁止は世界のスタンダードであるかのように言いますが、米国で も EU でも主食などその国に重要な作物には例外として許可されており、今回の改 正案のように例外なしで一律に許諾制にしてしまう国は世界のどこにもありませ ん。

 (6) 農水省は、今までとおり許諾制や使用料を支払う必要のない一般品種がほとんどだ と農家の不安を消すような情報を出しています。しかし、在来種などを守る法制度 が存在しない中で、果たして法に守られた登録品種と守られない在来品種との間で 訴訟になった時に、在来品種を使う農家の権利が守られるか、大きな疑問が存在し ています。

 

2、「遺伝子組み換え種子」栽培の規制と表示義務と「ゲノム編集」種子と苗は、同等の 禁止措置と規制強化をすべきです。

(1) ゲノム編集技術は明らかに人為的な遺伝子操作技術であり、遺伝子組み換え技術と 別に分けてゲノム編集技術は安全に問題ないとする解釈は無理があります。遺伝子 組み換えを規制し表示する法の原則に従い、ゲノム編集による種苗を同等に規制す べきです。

(2) ゲノム編集技術の根幹を占める CRISPR-Cas9 にはその特許権を巡り、巨額な訴訟 が行われており、本格的に実用化する際には高額な特許料の支払いが必要で、その 開発は結局、巨大企業に独占されることになります。これらの技術を優遇すること は、中小規模の日本の農漁業者の競争力強化にも発展にも繋がりません。

(3) 生協組合員など消費者にとって、遺伝子組み換え食品の多くは明確な表示がある場 合は忌避されています。そのため逆に表示を無くそうというのが開発企業の意図だ と思われます。しかし世界各国とも規制及び表示の義務化は加速しています。日本 だけが、ゲノム編集食品を自由化することで、こうした流れに孤立し海外輸出の阻 害要因となることが想定されます。

 

3、国内の伝統伝統的在来品種について、その調査を行い保全と育成に関する法律を制定す べきです。

(1) 日本の在来種(京野菜や山形赤かぶなど各地に存在する)は、消費者のニーズも高 く国際的にも評価され、その加工品とともに高額で売買されています。有機栽培の 農産物への消費者ニーズの高まりと合わせて、地域固有の在来種伝統種を保護育成 することは国の急務です。

(2) 現在支配的な国際的な巨大多国籍企業の種苗占有に道を開くのではなく、国内農漁 業者を守り育成することは、国の将来を保全するビジョンに不可欠です。地球温暖 化と気候変動の時代、人工急増する世界にあって地域に根ざした農漁業の保全こそ 求められています。このための法律制定を求めます。

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